「自分を信じること」と「認められたい願望」の狭間で – 心理学から考える自己肯定と承認欲求 –

「自分を信じること」と「認められたい願望」の狭間で – 心理学から考える自己肯定と承認欲求 –

私たちは「自信を持ちたい」「他者から認められたい」という願望を持っています。そして、これらの願望は単に達成されると「気分が良い」というようなものではなく、メンタルヘルスにおいても重要なキーワードとなっています。逆に「自信が失われ」ていたり「他者から認めてもらえない」という状態はストレスとなり、メンタル不調のきっかけともなってしまうのです。今回は「自信」と「承認」において重要な自己肯定を心理学的な観点から解説してみたいと思います。

目次

  1. 「自己肯定されたいという気持ち」の心理学的研究の歴史
  2. 自己肯定するために最低限必要なステップ
  3. 自己肯定の光と闇
  4. 自己肯定の次は「自己実現だ!」
  5. 自己肯定と人付き合いの関係
  6. まとめ

【1】「自己肯定されたいという気持ち」の心理学的研究の歴史:

自己肯定とは「自分は正しいと思える状態」や「自分で自分を認めることができている状態」を指します。心理学では、より専門的な用語として、自己肯定のことを自尊感情や自己効力感とよびます。

(1)自尊感情とは:

自尊感情とは、自分自身に対する評価の感情であり、自分自身を基本的に価値があるものだとする感覚のことです。ただし、自尊感情はその人自身が常に意識することはできず、「自分は価値があるんだ!」ということに、気が付かない場合もあります。そんな普段は気づきにくい自尊感情ですが、自分自身の存在や人生を基本的に価値あるものとして評価し、信頼するために必須なものとなっています。また、自尊感情が高くなる要因として、両親の暖かで無条件に受容する養育態度が挙げられます。家族との関係性が良好であることが、自己肯定の基礎を形成するわけです。自尊感情が高ければ、日々の様々な経験(仕事や勉強など)を積極的・意欲的に積み重ねることができ、満足感を高め、自分自身だけでなく他者に対しても受容的(他者のことも認めてあげられる状態)に接することができます。従って、自尊感情は精神的な健康や適応的な生活、円滑なコミュニケーションの基礎となるものなのです。
心理学者のジェームズは自尊感情について研究しており、自尊感情は「数式」で表すことができるとしています。ジェームズは【 自尊感情 = 成功 ÷ 願望 】という数式で、簡易的に自尊感情の程度を計算することができるとしています。この自尊感情に関する数式は、個人が願望を持っている領域で成功したと思えることが、自分に対する満足を高める、という流れを示しています。

(2)自己効力感とは:

自己効力感とは、自分がありとあらゆる出来事の主体(主人公)であると確信できている程度のことです。また、自分の行為について、自分がきちんとコントロールできているという感覚を持つこと、自分が他者からの期待や要請にきちんと対応しているという確信のことです。従って、自尊感情よりも周囲の状況や他者との関係が強調されるものとなっています。自己効力感を高める(低下させない)方法について、心理学者のバンデューラが4つのポイントに基づいて整理しています。

    • 熟達の経験:

何かに成功したという経験は自己効力感を高めます。成功体験を積み重ねているということが「熟達」しているということです。成功体験の積み重ねがあれば、少しの失敗経験は問題になりません。しかし、成功体験が無い状態(自己効力感が確立されていない状態)で、失敗経験をしてしまうと、自己効力感は下がってしまいます。

    • 社会的モデリング:

自分と似た他者が地道に努力を継続させた結果として、何かで成功を収めるのを見ると、自分自身の成功できる可能性について確信を強めることができます。「あの人ができたのなら、自分にもできるはずだ」という感覚は自己肯定につながるのです。

    • 社会的説得:

自己効力感に基づいて実施した行動・行為が周囲の他者から認められたり、励まされたりすると、私たちはより努力をするようになります。努力が積み重なれば、成功する機会が増えます。成功体験が増えれば、自己効力感が増し、自己肯定も強くなります。

    • 生理学的状態:

自分の生理的な状態がどのようなものであるのかも重要です。私たちは、たとえば「心臓がドキドキしている」という生理的な状態の原因を実は理解できていないことが多いです。たとえ、上手く行っていなかったとしても、過剰に不安を感じたり落ち込んだりしないようにすることは、自己効力感の低下を防ぎます。また、自分の生理的な状態(ドキドキやハラハラなどの感覚)の解釈の仕方を変えることで、自己効力感を高め、自己肯定を強めることができます。

このように、自己肯定とは、自分自身は価値があるのだという感覚である自尊感情と、自分が主人公でコントロールするのは自分だという感覚である自己効力感の2つで構成されているのです。

【2】自己肯定するために最低限必要なステップ:

自己肯定をするためには、最低限必要なステップというものがあります。これは、心理学者のマズローが提唱した欲求階層説と関連しています。欲求階層説では、人間の欲求をピラミッドのような階層構造を持っているとしており、第1段階が生理的欲求、第2段階が安全欲求、第3段階は所属と愛情の欲求、第4段階が承認欲求、第5段階は自己実現の欲求という5段階で構成されています。私たちは誰しも、第5段階の自己実現に向けて人生を生きているというのがマズローの考え方であり、自己実現を成し得た人、というのは自分の人生をごまかさずに楽しめている人のことであるとしています。つまり、自己肯定(自尊感情・自己効力感)がしっかりと備わっている人というのは、自己実現に向かってどんどん進んでいる人であるといえるでしょう。
さて、これらの5つの段階の中で、自己肯定のために最低限必要な部分が2つあるとされています。

(1)生理的欲求の充足 食事や睡眠などの生命維持に必須の事柄が満たされている
(2)安全欲求の充足  生活圏内の治安が良く、安心して暮らせる状態

このように、人間にとって最も根本的な部分である第1段階の生理的欲求と第2段階の安全欲求が満たされていなければ、自己肯定は生まれないのです。これらが満たされてはじめて、私たちは「他者と関わりたい」と思うようになります。それが、第3段階である所属と愛情の欲求の段階です。そして、集団(部活や学校・会社など)に所属したからには「みんなから認められたい」と思うようになります。それが次の段階である承認欲求の段階です。
承認欲求は他者に自分の存在を認めてもらいたい、自分の考え方を受け入れてもらいたいという欲求です。承認欲求の強い人は同調性が高く周りに合わせて行動する傾向があり、説得されやすい、周囲から良く思われたいために印象操作を多く行うなどの特徴があります。また、自己肯定(自尊感情・自己効力感)が低いということも判明しています。承認欲求は誰にでもあるものですが、それが強すぎると、他人の目ばかりが気になり、常に自信の無い状態になってしまうのです。余談ですが、承認欲求の強い人は「専門家泣かせ」な存在でもあります。承認欲求の強い人は、実験担当者に対しても「良く思われたい」と思ってしまうため、心理学の実験中に思わぬ行動をしてしまったり、心理学関連の調査に正直に回答してくれなかったりということが多いのです。

【3】自己肯定の光と闇:

(1)自己肯定がメンタルヘルスに及ぼす良い影響

自己肯定(自尊感情・自己効力感)が強いことは、メンタルヘルスにとって非常に重要な要素です。私たちはストレスに対処する際に、2段階で対応しています。まず、第1段階ですが、これは自分の周囲で発生した出来事に伴うストレスがどのくらい脅威なのかを判定する段階です。そして、第2段階では、そのストレスの脅威を自分が適切に対処できるかどうかを判定します。この第2段階の判定を受けて、私たちは具体的なストレスへの対処行動(コーピング)を実行します。この第2段階で重要となるのが自己肯定(自尊感情・自己効力感)なのです。自分を認め、自分に自信があることで「私はストレスにちゃんと対処できる」という気持ちや「この困難な状況も自分でちゃんとコントローできる」という感覚を持つことができます。その結果、たとえストレス事態に直面しても、上手に対応することができるのです。

(2)自己肯定のためなら「自分を騙す」ことまでしてしまう

メンタルヘルスにとって重要な自己肯定(自尊感情・自己効力感)ですが、重要であるがゆえに、私たちは自己肯定に振り回されて、自分を見失ってしまうことがあります。自身を失うことは誰しもイヤなことですが、そのためなら、私たちは自分を騙すことまでしてしまうのです。心理学では、このような現象をセルフ・ハンディキャッピングとよんでいます。
セルフ・ハンディキャッピングとは、ある課題を遂行する際に、その遂行結果の評価を曖昧にするために、課題遂行の妨害となる障害を自ら作り出す行為のことを指します。また、障害があることを自ら周囲の他者に声高に主張することも、セルフ・ハンディキャッピングの一種です。何らかの課題遂行に失敗した場合、セルフ・ハンディキャッピングによって失敗がその障害のためであり、自分の能力の欠如のせいではないと考えることができ、自信を失わずに済みます。逆に成功した場合には、障害があったにもかかわらず成功したということで、自分の能力をさらに高く評価することができるので、自己肯定を高めることができます。セルフ・ハンディキャッピングは、人生において重要な課題の遂行する場合に、成功の確信がもてない時に実施されやすいとされています。具体的なセルフ・ハンディキャッピングの方法としては、事前(前日)にお酒を沢山飲む(二日酔いのせいにする)、あえて困難な状況の方を選択する、手を抜く(できるはずなのに、努力しない)、不安や病気の主張などです。これらの事柄には、身に覚えがあるという方も多いのではないでしょうか。「ちゃんと成功させないといけないのに、サボってしまう」という背景には、自己肯定を低下させることを避けるためのメカニズムが働いているのです。

【4】自己肯定の次は「自己実現だ!」

(1)みんなに認められた、その先が重要
前述のマズローの欲求段階説では、第3段階で所属と愛情の欲求が発生し、次いで承認欲求が発生します。他者から認めてもらうことは自己肯定において重要ですが、承認欲求が強すぎる人は逆に自己肯定が低いという問題もあります。そして、真の自己肯定は次の第5段階である自己実現の欲求が満たされた時なのです。自己実現は承認欲求のさらに上のステップであり、他者から認められた上で「本当に自分がやりたいこと」や「人生における最終目標や夢」を実現させることです。これこそが、最高の自己肯定であるというわけです。

(2)「自己実現は孤独」という事実
誰しもが持つ「人生の最終目標」が自己実現であり、その前段階である生理的欲求・安全欲求・所属と愛情の欲求・承認欲求は全て自己実現のための「前フリ」なのです。欲求のピラミッドの最上段が自己実現ですが、ピラミッドは頂上が一番面積が狭いです。そのため、自己実現を達成する瞬間は、自分1人になってしまうのです。承認欲求までは周囲の他者の存在が非常に重要でしたが、自己実現は周囲の他者から認められるかどうかを超えたところにあるため、実は孤独な作業となることが多いのです。また、自己実現が失敗してしまうと、自己肯定(自尊感情・自己効力感)が大幅に低下してしまう可能性もあり、けして楽しいだけのものではないのです。さらに、自己実現を達成してしまったら、一時的に人生の目標が無くなってしまいます。人生の目標が失われてしまったままでは、自己肯定も失われてしまうので、次の目標を見つける必要があります。

【5】自己肯定と人付き合いの関係:

(1)自信満々の人は嫌われる?
自己肯定(自尊感情・自己効力感)が強いということは様々な場面で大切な要素となります。しかし、自己肯定が強すぎると周囲の他者との間に軋轢を生んでしまうことも多くなります。自己肯定が強すぎる人は、自分に自信があるということを、他者にも向けてしまいます。自信が高く、成功体験を積み重ねている人は、他人も自分と同じようにすれば、同じように成功できるはずだと思い込みがちです。また、日頃から自信満々の態度で過ごしていると、多少の失敗でも周囲の期待を大きく裏切ってしまったり、信頼を失ってしまうこともあります。ただ、自己肯定が強すぎる人は、肯定感を失うことを恐れ、セルフ・ハンディキャッピングに頼ってしまうことも多くなりがちです。そうなると「あの人はまた言い訳ばかりだ」というように周囲の他者に見られてしまい、承認や賞賛が減少し、結局、自己肯定も下がってしまうわけです。

 

 

 

 

(2)自身が無い人はメンタル不調になりやすい?
強すぎる自己肯定は問題ですが、逆に自己肯定が全然ないというのも大きな問題です。前述のように、ストレス事態に直面しても、自己肯定が多少でもあれば、上手く対処することができるはずです。しかし、自己肯定が無いと、ほんの少しのストレスも「乗り越えられる自信が無い」と感じてしまい、悪影響が出てしまいます。そのため、自己肯定の弱さ・低さは、うつ病や不安症、パニック症などのストレスと関連の強い精神疾患の発症率ともリンクするといわれています。また、自己肯定が弱い・低いと、周囲の他者とも積極的にコミュニケーションが取れません。その結果、ストレス事態において周囲の他者からの支援(ソーシャル・サポート)をあまり受けられないという状態になってしまいます。

【6】まとめ

今回は自己肯定について、心理学的な観点から、自尊感情と自己効力感というキーワードで解説しました。また、自己肯定と関連の深いマズローの欲求階層説を軸に、自己肯定と他者との関係や自己実現についてもお伝えしました。そして、自己肯定の良い部分と悪い部分として、ストレス・マネジメントとの関係やセルフ・ハンディキャッピングについても解説させていただきました。
自己肯定は成功体験の積み重ねによって、作り出されていくものです。そして、その成功体験は、最初はどんなに小さなものでもかまいませんし、自分が得意な分野に限定しても全然問題ありません。とにかく、まずはスモールステップで成功を積み重ねていくことで、自己肯定が育まれ、自尊感情の高まりと、自己効力感の強化がなされていきます。

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