虚無感とは何か? – 心理学から考える正体と対処法

虚無感とは何か? – 心理学から考える正体と対処法

虚無感、虚しさを感じたことがある、という人は多いと思います。精神医学の分野では、虚無感・虚しさを、より専門的な言葉で無価値観とよぶことがあります。これは、身の回りで起きるあらゆる出来事に対して、価値がないように感じ、楽しめない・喜べない・興味関心が持てない、というような状態です。無価値観はうつ病の診断基準となっている9つの症状のうちの1つであり、メンタルへルスにおいて重要なキーワードとなっています。そこで、今回は虚無感(無価値観)について、心理学的・精神医学的な観点から解説をしていきたいと思います。

目次

  1. 虚無感に関する心理学
  2. 虚無感が発生しやすいのは何月?
  3. 虚無感は学習されてしまうものである
  4. 虚無感と病気の関係
  5. 虚無感を和らげる方法
  6. まとめ

【1】虚無感に関する心理学:

(1)虚無感とは:

虚無感と同義の言葉として、無感動・無感情・無関心などが挙げられます。これらの用語を総称して、心理学ではアパシーという用語を使うことが多いです。通常、私たちは周囲の環境変化に対して適応するために、常に五感を働かせています。これは知覚という段階であり、情報収集をしている状態です。そして、目や耳からの情報を処理する段階を認知とよび、ここで今、周囲で起きていることが自分にとって都合が良いか悪いかという判断・評価が行われます。知覚・認知に次いで発生するのが感情です。出来事に対して、自分にとって都合が良いという判断・評価をしたのであれば、楽しい・嬉しいなどのポジティブな感情が発生します。逆に自分にとって都合が悪いという判断・評価をしたのであれば、悲しい・不安などのネガティブな感情が発生します。しかし、アパシーの状態に陥ってしまうと、どのような出来事が起きようと、認知の段階で情報処理が上手くできず、興味・関心を持って出来事を捉えることが困難になってしまいます。そのため、続く感情についても、楽しいでも悲しいでもない、虚無感という気持ちを抱いてしまうのです。

(2)虚無感と自律神経の関係:

虚無感は自律神経の観点から研究が実施されています。一般的に集中・興奮(意欲的・楽しいなども含む)・不安・怒り・恐怖などの感情が発生すると、交感神経が活性化し、エネルギーが消費されます。逆に安静・リラックス・睡眠などの状態であれば、副交感神経が活性化し、エネルギー消費は抑えられます。私たちの身体は交感神経と副交感神経がバランスを取りながら、活性と抑制をシーソーのように繰り返しています。しかし、虚無感の状態になってしまうと、交感神経も活性化しないし、副交感神経も活性化しない状態になってしまいます。従って、勉強や仕事など集中しなければならない時にも、集中できず、意欲が出ません。そのため、エネルギー消費が起こりにくくなってしまい、適度な疲労すら起こらなくなります。通常、日中の勉強・仕事による疲労を回復させるために、夜間に副交感神経が活性化し、リラックスした状態で入眠しやすくなります。しかし、虚無感の状態ではそれが起こらないために、寝付きが悪くなり、場合によっては不眠症になってしまうこともあります。
私たちは健康であれば、自律神経によるバランス作用によって、フィジカルもメンタルもメリハリのある状態が維持されます。ですが、虚無感に覆われてしまうと、そのメリハリが無くなり、生活に“張り”がなくなってしまうのです。

【2】虚無感が発生しやすいのは何月?:

虚無感が発生する原因には様々なものがありますが、特に日本人に関しては、何月ごろに虚無感を感じやすいかということが判明しています。いわゆる、5月病はアパシー(虚無感)の状態になりやすい月(時期)があるということを表しています。これは特に大学生によくみられる現象なので、別名、スチューデント・アパシー(学生無気力症候群)ともよばれています。大学生の休学や退学のきっかけとなるのが、ゴールデン・ウィークに端を発するスチューデント・アパシーであることが多いということが報告されています。しかし「5月ごろ」という時期的特徴と「大学生に多い」という対象者の特徴が揃って認められることが多いのは日本だけではないかと考えられています。大学生はそれまでに受験勉強で強いストレスに曝される時期が長く続きます。受験の合否は1月から3月ころまでに出揃い、その結果に応じて、様々な手続き(書類の提出・学費の支払い・引っ越しなど)を期限内に終わらせなければなりません。そして、4月に大学に入学し、全く新しい環境と対人関係の中で生活がスタートします。しかし、1ヶ月もしないうちにゴールデン・ウィークに突入するため、緊張とストレスが高い状態から急転直下、休日で大学に行く必要がなくなってしまいます。その結果、膝から力が抜け落ちるように、張り詰めていた気持ちが緩み、虚無感に襲われてしまいます。これが1日、2日の短い休みならば、そこまで脱力せずに済むのですが、ゴールデン・ウィークは10日以上も続きます。そのため、一旦抜けてしまったっきり、力が入らず、ダラダラと過ごしてしまうことが多くなります。
5月病は新卒社会人や中学1年生、高校1年生などにも起こることがあります。ただし、新卒社会人は仕事に対する責任感や給与などの問題もあり、虚無感に完全には支配されにくいという背景があります。また、中学生・高校生の場合は、ゴールデン・ウィーク明けに学校を休んだとしても、学校の先生や親とのコミュニケーションが虚無感を抑制する働きがあります。大学では、頻繁に出席を取られたり、欠席したからといって親に即連絡が行くことも無いので、虚無感の影響でどんどんゴールデン・ウィークが「延長される」という現象が起こってしまいます。

【3】虚無感は学習されてしまうものである:

心理学には学習心理学という分野があります。ここでいう“学習”というのは勉強やテストのことではなく、生まれつきの能力や繰り返し練習することによって、新たな行動(反応)を獲得することを指します。この学習心理学の研究によって、虚無感は学習によって“身に着けてしまうもの”であるということが判明しています。
心理学者のマーティン・セリグマンは犬を使った実験によって、学習性無力感という現象を明らかにしました。まず、16頭の犬が8頭ごとに2つのグループに分けられます。Aグループはハンモックの上に両手足を固定され、電気ショックを流されます。ただし、頭の横にあるクッションを押すことで電気ショックをストップすることができます。一方、Bグループに振り分けられた8頭の犬はAグループと同様にハンモックに固定されて電気ショックを受けます。しかし、Aグループとは異なり、電気ショックをストップさせることができません。AとBのグループの犬たちは、このような実験を何度か繰り返し受けます。続いて、日にちを空けて別の実験に16頭の犬たちが参加します。今度の実験は中央に仕切りのある大きなボックスに犬たちが入れられます。ボックスの床の半分には電気ショックが流れる仕掛けが施されていますが、仕切りをジャンプして反対側に辿り着けば、電気ショックを回避することができます。Aグループの犬たちは前回の実験で「自分で何とかすれば、電気ショックを回避できる」ということを学習していますので、何回かの練習の後、仕切りをジャンプして電気ショックを避けるという行動を獲得することができました。しかし、Bグループの犬たちは前回の実験で「電気ショックという嫌な状況を自分の力で回避することができない」ということを学習してしまいました。そのため、本来は仕切りをジャンプすれば電気ショックを回避できるのに、ボックスの床にうずくまって、ただただ嫌な刺激に曝され続けました。このBグループの犬たちに起きた現象を整理すると、以下のようになります。

1. 知覚(出来事):ハンモックに固定されて電気ショックを浴びるが、それを回避できない。
2. 認知(判断・評価):自分が何をしても電気ショックを回避することはできない。
3. 感情:何をしても無駄だ、自分は無力だという虚無感の発生。
4. 行動:別の日に別の状況(仕切りのあるボックスと床からの電気ショック)に遭遇しても、「この前もダメだったんだから、どうせ今度も何をしても無駄なんだ」と考えてしまい、何もしなくなってしまう

セリグマンの実験のようなシチュエーションは、私たちの日常生活でも良く起こるものです。自分がどんなに努力したり工夫したりしても、どうしようもないという経験が連続することがあるかと思います。研究の結果、私たち人間も、セリグマンの実験に参加した犬と同様に虚無感(無力感)を学習してしまい「どうせ何をしてもダメだ」と考えに囚われて、何もしなくなってしまうことがあるのです。

【4】虚無感と病気の関係

虚無感に囚われる状況は、日常生活の中で当たり前のように存在しています。そして、虚無感が病気の原因になってしまうこともあります。前述のように、虚無感は自律神経全体の活動を低下させてしまいます。その結果、免疫力が低下してしまい、あらゆる身体疾患に罹り易くなってしまうということがあります。また、元々、呼吸系が弱いとか、肌が弱いなどのようにウィークポイントがある場合、免疫力の低下によって症状が悪化するというケースもあります。
また、メンタルヘルスの分野では、虚無感と特に関連が強いのがうつ病です。前述のように、うつ病の診断基準の1つが無価値観(虚無感)です。この無価値観(虚無感)と連動して、他のうつ病の症状も発生することがあります。たとえば、興味の減退・食欲や体重の低下・不眠・思考や意思決定の困難などです。これらは、いずれも無価値観(虚無感)と関連する認知機能や行動に関する問題であり、うつ病の診断基準に含まれるものなのです。

【5】虚無感を和らげる方法:

単なる感情の問題にとどまらないのが虚無感の厄介なところですが、では、どうすれば虚無感を和らげることができるのでしょうか。人間の心理的な過程の最も基本的な流れは、① 知覚 ⇔ ② 認知 ⇔ ③ 感情 ⇔ ④ 行動になります。そして、この4つのうちの1つでも変化させることができれば、矢印が【 ⇔ 】となっていることからも分かる通り、相互作用的に影響が波及し、良い方向に変化していく可能性が高まります。ただし、知覚を変化させるのは非常に難しいです。なぜなら、知覚とは“出来事”であり、自分の周囲で起こる出来事を全てコントロールするのは不可能だからです。従って、知覚以外の認知・感情・行動を変化させて、虚無感を抑える方法を紹介したいと思います。

(1)コラム法:

コラム法とは、うつ病の治療・支援に効果的である認知行動療法でよく行われる手法の1つです。簡単なシートに、出来事・その時に頭に浮かんだ考えやイメージ・その時の感情(1点~10点で何点)について書き込みます。特に重要なのは「頭に浮かんだ考え」です。これは認知に当たる部分であり、この部分が変化すれば続く感情の部分が変化します。つまり、虚無感を感じたのであれば、その直前に頭に浮かんだ考えやイメージの方をコントロールすれば良いわけです。コラム法では、頭に浮かんだ考えやイメージに対して、別の視点から捉え直したり、より論理的な観点から考え直したりすることで、認知を修正し、続く感情を変化させるきっかけを作ります。虚無感の場合も同様で、虚無感を感じるに至った考えやイメージの方を修正させます。これらは頭の中で組み立てながら進めても良いのですが、シートに書き込む、自分の状態を客観的に記録するということが重要です。特に考えやイメージは書き留める等をしないと忘れてしまい、続く感情がすぐに湧き出してコントロールが難しくなってしまいます。考えやイメージを書き留めることで、一旦、冷静になって感情に振り回されないようにすれば、虚無感に苛まれるのを防ぐことができます。

(2)運動法:

感情に続いて起きるのが行動です。虚無感の場合は「〇〇しない」とか「△△する気が起きない」というような回避的な行動へと波及してしまいます。そこで、行動の方を変えることで、感情に良い影響を与えるというアプローチが効果的な場合があります。運動は比較的簡単に交感神経を活性化させることができます。そして、運動後の適度な疲労感によって副交感神経が活性化します。このように、運動をすることによって自律神経活動にメリハリが生まれ、虚無感が低下するようになります。また、適度な運動は副腎皮質ホルモンの一種であるグルココルチコイドの分泌を促すことが判明しています。グルココルチコイドは脳の中で感情調整機能を司っている視床下部に影響を与え、一時的にネガティブな感情を低下させ、ポジティブな感情を高める作用があります。従って、運動は脳や神経伝達物質という生理学的な観点からも、虚無感の低下に効果的であるということになります。ただし、運動は「適度」でないとダメです。あまりにも強い負荷がかかる運動では、交感神経は活性化したままになってしまい、視床下部にも悪影響を及ぼしてしまいます。そのため、本格的なスポーツやジムでの激しいトレーニングではなく、ウォーキングなどの有酸素運動が良いとされています。

(3)呼吸法:

運動をする時間が取れない、という人には呼吸法も効果的な手法です。自律神経は呼吸の影響を受けるため、呼吸法を工夫することで、自律神経活動を活性化させることができます。最も効果的なのは、ゆっくりと5秒間かけて大きく鼻から息を吸って、ゆっくりと5秒間かけて大きく口から息を吐くという方法です。呼吸の場合、息を吸うと交感神経が活性化し、息を吐くと副交感神経が活性化します。特に高い活性化を促すのが5秒間隔の呼吸であるとされています。このような呼吸法を約20分程度実施することで、自律神経を活性化させ、メリハリのある状態に作り出し、間接的に虚無感を低下させることができます。

【6】まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は心理学・精神医学の観点から、虚無感について解説してきました。重要なポイントとしては、私たちの心の流れは知覚・認知・感情・行動というプロセスを経ていくものであるということです。虚無感は感情に区分されるものですが、その前後の認知や行動を変化させることで、上手にコントロールすることができるわけです。
私たちは5月になると虚無感を感じやすくなったり、たまたま失敗が重なってしまうと「自分は無力だ」ということを学習してしまったりしてしまう生物です。しかし、頭に浮かんだ考えやイメージを書き留めたり、有酸素運動をしたり、呼吸法を取り入れたりすることで、比較的に簡単に虚無感を和らげることができます。もし、虚無感に苛まれるようなことがあれば、ホッとライフではいつでもオンライン相談員がおりますのでお気軽にご連絡ください。

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