怒りをコントロール -アンガーマネジメントの実践-

怒りをコントロール -アンガーマネジメントの実践-

 仕事でイライラしてしまう、子どもについ怒鳴ってしまい気まずい思いをした、など、怒りの感情に関するトラブルは、誰にでも経験があることだと思います。誰にでも起こることではあるものの、たった1度の「怒り」がきっかけで、仕事も家庭も友人関係も崩壊してしまうということすらあります。
これは、怒りという感情が他の感情と比較しても、非常に強く、影響力の幅が広いからです。そのため、最近では、精神医学的な側面だけではなく、より身近な学校教育や企業研修などにおいても、怒りのコントロールというテーマがクローズアップされています。そこで、今回は怒りという感情の正体について解説するとともに、アンガーマネジメントについて解説していきたいと思います。

目次

  1. 怒りとは何か?
  2. 怒りと病気の関係 – 精神疾患における怒りの感情 –
  3. アンガーマネジメントとは?
  4. アンガーマネジメントのテクニック
  5. まとめ

【1】怒りとは何か?

心理学において、怒りは人間の基本的感情の1つであり、怒りの表情は人種や文化を越えて類似しており、眉が引き寄せられて下がり、口が四角く開かれるというものということで共通しています。怒りは欲求充足が阻止された時に、その阻害要因に対して生じるとされており、怒りに対応する基本的行動には「攻撃」や「破壊」があります。また、怒りの状態では交感神経系が活性化し、血圧の上昇、心拍数の増加などが起きることが分かっています。一般的に「怒られる側」がストレスを感じるというイメージがあるかと思いますが、実は「怒っている側」にも身体の内側で生理学的なレベルでダメージが発生しているのです。従って、イライラしていることが多い人はメンタル的にはストレスが高く、怒りをぶちまけることでストレスが発散できているように見えても、実はフィジカル面にもダメージを受けてしまっているのです。

【2】怒りと病気の関係 – 精神疾患における怒りの感情 –

一生、付き合っていかなければならない怒りの感情ですが、あまりにも過剰な場合は治療・支援が必要なケースもあります。怒りや怒りのコントロールの問題が顕著な精神疾患として、以下のようなものがあります。

(1)重篤気分調節症

 重篤気分調節症は、怒りとかんしゃく行動が顕著な精神疾患であり、以下のような診断基準があります。

■ 激しい暴言や人物や器物に対する物理的攻撃行動が認められ、激しいかんしゃく発
作の繰り返すが、充分に理解できる理由によるものではない。

■ かんしゃく発作は、平均して、週に3回以上起こる。

■ ほとんど1日中、ほぼ毎日、怒りの感情が持続しており、それは他者の目から観察可能である。

■ このような症状が12ヶ月以上持続しており、各症状は3つの場面(① 家庭、② 学校・会社、③ 友人知人関係)のうち、2つ以上で認められる。

 また、重篤気分調節症には「6歳以下または18歳以上で初めて診断すべきではない」という基準と「最初に各症状が確認されるのは10歳以前である」という基準があります。6歳以下の子どもがかんしゃくを起こすのは病気ではないですが、そのような状態がずっと続いているのであれば「18歳まで診断されずにスルーされる」という可能性はほぼないだろうということを意味しています。

(2)パーソナリティ障害

 パーソナリティ(性格)に関する問題によって、どうしても怒りがコントロールできないケースもあります。反社会性パーソナリティ障害は、攻撃性や衝動性が強い性格であり、違法行為や犯罪につながる問題行動を頻発させてしまうことがあります。また、良心の呵責が欠如しているという特徴もあるため、怒りや攻撃をコントロールしようとか、自分を抑えようという意識が非常に薄いという特徴があります。
 また、境界性パーソナリティ障害は、感情や対人関係が極めて不安定であるという特徴があります。そのため、イライラしやすい、他者を激しくこき下ろすなどの問題を抱えやすいです。特に対人関係のトラブルに発展しやすく、多くの人を巻き込み、法的な問題に発展するケースもあります。

【3】アンガーマネジメントとは?

 怒りの感情は日常的に誰でも感じるものであり、仕事でイライラすることは、誰にでも経験があることではないでしょうか。一方で、怒りがコントロールできないことが大きな問題になると、重篤気分調節症や反社会性パーソナリティ障害、境界性パーソナリティ障害などの精神疾患へと発展してしまうケースもあります。そこで、日常的なイライラにも、精神疾患の治療・支援にも、どちらにも有効な方法として活用されているのが、アンガーマネジメントです。
 アンガーマネジメントとは、怒りの感情や攻撃行動を上手にコントロールするための技法です。重要なのは「怒りを感じるのは悪いこと」や「怒りを感じないようにする」という考え方ではなく、怒りは自然なものであり、怒りを表すことは悪いことではなく、ただ、その強度や頻度、放出の仕方を工夫すれば良いというものです。より具体的には、以下のように怒りを捉え直すのが、アンガーマネジメントの基本です。

 ■ 怒りは非常に強い感情だが、実際にはその裏に「共感してもらいたい」などの別の感情が潜んでいることに気づく

 ■ 怒りの原因は「ゆずれない価値観」にあり、怒りを生み出すのは自分自身である

 ■ 大切な価値観を変える必要はないが、価値観を広げ、許容範囲を増やす

 ■ 怒り身近な対象に向かいやすく、大切な人ほど傷つけてしまいやすい

 ■ 怒りはモチベーションにもなるので、上手に使えば仕事やスポーツにも役立つ

 アンガーマネジメントは心理学的な観点からの「怒りに関する教育」からスタートします。まずは、正しい知識を身に着け、怒りの正体を知った上で「怒りは特別なモノでも、悪いモノでもない」という認識を持つことが重要なのです。対人関係においても「怒りを我慢している人」や「どんな状況でも、全然怒らない人」が良い人なわけではない、という風に考えるのがアンガーマネジメントの基本です。

【4】アンガーマネジメントのテクニック

 では、アンガーマネジメントの具体的なテクニックにはどのようなものがあるのでしょうか。以下により活用されるテクニックについて紹介します。

 ■ 論駁法(ABCDE法)

 論駁法は「ABCDE理論」とよばれる心理学の理論に基づくものです。これは、怒りの感情を含む、全ての心理的過程に共通する、いわゆる“心の流れ”をコントロールするもので、以下のような考え方です。

① Aは「出来事(Activating event)」であり、ここから全てがスタートする
② Bは「信念(Belief)」であり、出来事の捉え方、考え方
③ Cは「結果(Consequence)」であり、信念に基づいた何らかの感情や行動の結果

 問題はBが非合理的な「誤った信念」であることが多いということです。怒りの場合は、別の視点で物事を捉えたり、前述のように“広い教養範囲”や“広い価値観”があれば、同じ出来事でも、捉え方が変わるはずです。しかし、信念とは“考え方のクセ”のようなものなので、注意しないとA⇒B⇒Cは自動的かつ瞬時に起きてしまいます。つまり、何らかの出来事から怒りの表出が自動的に発生してしまい、アンガーマネジメントが重視する「怒りを感じること自体は問題ないが、頻度が多いことは問題だ」という“頻度”の問題が生じてしまうわけです。そこで、“論駁”という過程が重要になります。

 ④ Dは「論駁(Dispute)」であり、Bにおける「誤った信念」を冷静に考え直し、合理的・論理的に反証を探し、自分自身の考えに反論する。怒りの場合は、怒りを感じた根拠や現在のシチュエーションを冷静に捉え直すことで、怒りの強度や方向性をより適切なものに変更する。
 ⑤ Eは「効果(Effect)」であり、論駁によって変更された怒り(※怒りを感じないようにするのではなく、“適切な怒り”に変える)によって、より良い状態を作り出す(いつも悪いC(結果)だったものが、E(効果的な結果)に変わる)。

■ 思考停止法(ストップ!って言ってみる)

 論駁法とセットで活用すると有効なのが、思考停止法です。怒りを含む全ての感情は、自動的・瞬間的に頭を駆け巡り、コントロールする暇もなく表出されてしまいます。論駁法も一旦感情の流れをストップさせなければ、自分自身の考えに対して、冷静に反論することができません。
そこで、思考停止法を活用します。これは怒りを感じた際に頭の中で「ストップ!」と念じる(※声に出してもよい)ことです。アンガーマネジメントでは、怒りが持続してしまうことを問題視します。怒りを感じることは問題なくても、ずっと続くことが問題なので、まずは思考を一旦停止させて、怒りが広がらないようにします。思考停止法によって、一旦考えを止めることで、A⇒B⇒Cの「自動的な怒りへの流れ」を止め、D⇒Eの正しい方向性を導くことができます。

■ アサーション(怒りを表出すること自体は悪いことではない)

 アサーションとは、自分の気持ち・考え・意見・欲求・他者への要求や希望などを伝えたい時は、なるべく率直に、正直に、協調的・自他尊重的に、その場に合った適切な方法で伝える自己表現のことです。アンガーマネジメントでは、怒りを表出すること自体は悪いことではないとしています。しかし、表現方法を工夫しないことで、対人関係上のトラブルが起きてしまうのです。感情に任せて怒鳴り散らすのは「率直で協調的で自他尊重的な」表現方法ではなく、他者に伝えたところで、建設的な話し合いや、自分の主張を理解してもらうことにはつながりません。そこで、アサーティブな表現をすることで、怒りの感情を自分の要求を相手に理解してもらうためのきっかけとして利用するわけです。

■ 思考停止法・論駁法・アサーションを実践

 これらの手法をまとめると、まずは怒りを感じた時に、思考停止法で一旦考えをストップさせます。そして、論駁法で冷静に自分の考え方・捉え方を見直し、怒りの爆発を防ぎ、方向性を変えます。そして、アサーションによって、感じた怒りを適切に相手に伝えます。これにより、自然な流れの中で怒りは感じつつも、それ自体を否定せずに、適切にコントロールしつつ、自分の欲求・要求を他者にしっかりと主張することができるわけです。
 アンガーマネジメントは、仕事でイライラした際にも、思考停止法・論駁法・アサーションの流れで活用できます。仕事で怒りを感じるのは自然なことですが、アンガーマネジメントを活用することで、その怒りを“職場における適切な自己主張”に変えることができます。これにより、職場の対人関係も円滑になり、なおかつ「怒りやイライラを我慢しない」という自分らしさを保つことができるのです。

まとめ

 今回は、心理学的な観点から怒りついて解説するとともに、アンガーマネジメントについてもお伝えしました。怒りの感情をコントロールする方法は、実はそれほど難しくはないのです。ただ、どうしてもコントロールできそうにない、でも、この気持ちをどこかに吐き出したい、と思った場合は、心理カウンセラーなどの専門家に相談するのも選択肢の1つです。心理カウンセラーであれば、科学的根拠に基づいて、あなたの怒りを適切な方向に導くサポートをしてくれます。ホッとライフでは、オンラインで気軽に相談ができますので、是非、利用してみていただければと思います。

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