大人の発達障害との付き合い方

大人の発達障害との付き合い方

最近「大人の発達障害」という言葉を耳にすることが多くなっています。では「大人の発達障害」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?また、一般的な発達障害とは何が違うのでしょうか?今回は、心理学・精神医学的な観点から「大人の発達障害」について、解説していきたいと思います。

目次

  1. 発達障害の基礎知識
  2. 大人になってから「なる」のではない – 発症と発見の違い –
  3. “大人の発達障害”の具体例 -仕事で困るケース-
  4. 新型うつ病と“大人の発達障害”の関係
  5. 大人の発達障害との付き合い方
  6. まとめ

【1】発達障害の基礎知識:

発達障害は実は、2015年に正式名称が変更となり、現在、医学・心理学などの専門領域では、神経発達症とよばれています。これは、世界的な精神疾患の診断・統計マニュアルであるDSMの改訂版が出版され、その日本語訳が発行されたのを契機に名称が変更されたものです。ただ、発達障害という言葉自体が無くなってしまったわけではないのと、多くの一般の方の耳に馴染んでいるのは従来の発達障害の方だと考えられますので、便宜上の本稿では、発達障害という名称で統一して解説していきたいと思います。
 さて、発達障害とは、非常に簡単に言うと精神の発達に関する疾患です。身長が伸びたり、筋肉が付いたり、走るのが速くなったりなどの身体の成長・発達と同様に、年齢を経ることで“こころ”も成長・発達します。しかし、発達障害ではその“こころ”の発達に遅れや障害が発生しており、日常生活の様々な場面で問題が起こりやすくなります。代表的な発達障害には、以下のようなものがあります。

(1)自閉スペクトラム症:

虚無感と同義の言葉として、無感動・無感情・無関心などが挙げられます。これらの用語を総称して、心理学ではアパシーという用語 自閉スペクトラム症は、かつてはアスペルガー症候群や高機能自閉症、広汎性発達障害などの名称でよばれていたものを統一したというニュアンスのものになります。自閉スペクトラム症の主な症状には以下のようなものがあります。
・他者とかかわり、考えや感情を共有できない
・会話にいつどうやって参加すればいいか分らない(もしくは、判断に時間を要する)
・言ってはいけない言葉が何か分らない(もしくは、判断に時間を要する)
・直感的なコミュニケーション理解が困難(いわゆる「空気が読めない」)
・視線・身振り・顔の表情・身体の向き・抑揚の欠如や場にそぐわない使用
・対象の指差し・見せる・持ってくることの欠如、他者の指差し先を追わない
・言語的・非言語的コミュニケーションの協調が困難
・皮肉やお世辞を理解が困難(本音と建て前が分からない)
・対人関係上の不適切な態度(友達同士での会話と就職面接の区別ができない)
・意味の無い反復行動:手を叩く、指を弾く、貨幣を回す、一列に並べる
・極端なオウム返し(他者との会話において、そのまま自分のことを「あなた」と言う)
・変化への抵抗:好きなお菓子の包装が少し変わったこと苦痛に感じるなど
・儀式的様式:同じ質問を繰り返す、同じ場所を行ったり来たりする
・限局的な興味関心:鍋・掃除機に夢中、何十時間もかけて時刻表を自作するなど
・極端な無関心:痛み・暑さ・寒さに対する無関心
・感覚への鋭敏・鈍感:襟のあるシャツを絶対に着ない、砂を平気で食べてしまうなど

これらの症状により、社会生活全般、特に他者とのコミュニケーションにおいて様々な問題が生じます。家庭生活だけでなく、学校生活、就職後の社会人としての生活にも影響が波及してしまいます。

(2)注意欠如・多動症(AD/HD):

 注意欠如・多動症(AD/HD)は不注意・多動性・衝動性の3つの要素からなる行動に関連した症状がメインとなる発達障害です。注意欠如・多動症の主な症状には以下のようなものがあります。

不注意:以下の症状のうち、6つ以上が認められる場合

・顕著な不注意:細部を見過ごしたり、見逃してしまう、作業が不正確
・注意の持続困難:授業、会話、または長時間の読書に集中し続けることが難しい
・上の空:明らかに注意をそらすものがなくても、心がどこか他所にあるように見える
・指示に従えない:課題を始めるがすぐに集中できなくなる、または容易に脱線する
・順序立てられない:資料や持ち物を整理できない、作業が乱雑でまとまりがない、時間の管理が苦手、締め切りを守れない
・認知負荷の高い課題遂行が困難:宿題、報告書の作成、書類に漏れなく記入する、長い文書を見直すなどができない、またはそういった作業を避け、嫌がり、やるとしても嫌々おこなう
・重要なもの、必要なものをよくなくす:落とし物・忘れ物が多い
・気が散りやすい:どうでもいいことで気が散ってしまう
・約束が守れない:約束を忘れてしまうことが多い

多動性と衝動性:以下の症状のうち、6つ以上が認められる場合

 ・手足の動き:いつもソワソワ・モジモジしたり、意味もの無くトントン叩いたりする
 ・勝手に動く:席に座っていなければならない授業中などに立ち歩く
 ・危ないが意味の無い行動:急に走り出したり、高い所に上ったりする
 ・静かにできない:静かに本を読んだり、映画館で静かに映画館書したりできない
 ・エンジン全開状態:いつも全力全開の状態の為、周囲の人がついて行けない
 ・順番を守れない:列に並んで自分の順番を待つことができない
 ・他人の邪魔をする:会話やゲームなどで順番やルールが守れない
 ・相手に聞かずにまたは許可を得ずに他人の物を使い始める

 このような症状により、注意欠如・多動症(AD/HD)のクライエントは学業や仕事などの面で様々な問題を抱えやすくなります。

限局性学習症:

 限局性学習症は、勉強面において、特定の分野のみが非常に苦手であるという状態です。ただし、これは真面目に勉強してないなどの問題ではなく、どれだけ真面目に勉強しても、どうしてもできないというレベルのものになります。注意欠如・多動症の主な症状には以下のようなものがあります。

・読字障害:正確さ・速度・流暢性に問題があり、読解力が低い
・書字表出障害:文法や句読点の使い方、文章の分かり易さ、構成力に問題がある
・算数障害:数の感覚や記憶、計算の正確さや流暢さ、数学的推理の正確さに問題がある

このような症状により、限局性学習症のクライエントは学業や仕事などの面で様々な問題を抱えやすくなります。
これら3つの疾患が代表的な発達障害です。注意すべき点として、これらの発達障害は知的能力障害とは厳密に区別され、IQが低いわけではないということです(※重症の場合は、発達障害と知的能力障害を併発しているケースもあります)。

【2】大人になってから「なる」のではない – 発症と発見の違い –:

 本稿で「大人の発達障害」というように、あえて「 」で表現しているのは、実際には「大人の発達障害」という病気が存在しているわけではないからです。パーソナリティ障害なども同様ですが、発達障害とは、ある日を境に病気を発症するというものではありません。逆にうつ病などの場合は、風邪やインフルエンザなどと同じで、健康だった日々があり、そこからある日を境に発症してメンタル不調に陥るわけです。発達障害は発症ではなく「発見」されるものなのです。そして、非常に軽度であったり、発達障害の傾向を有している程度であれば、子どもの頃に診断されないケースがあります。つまり、様々な問題が潜在的に存在していたものの、発見には至らなかったということです。「大人の発達障害」とは、大人になってから発達障害になったのではなく、大人になってから発達障害であることが“分かった”という状態なのです。

【3】“大人の発達障害”の具体例 -仕事で困るケース-:

前述のような各種発達障害の症状は、主にクライエントが子どもであることをイメージしたものが多いです。なぜなら、基本的には発達障害の診断は子どもの頃に発達検査などを通じて実施されるからです。症状の具体例が子どものライフスタイルを中心としたものになっているのもそのためです。では、成人した社会人のライフスタイルにおいて、発達障害の症状はどのような問題を引き起こすのでしょうか?

「空気を読む」ことができない自閉スペクトラム症

 自閉スペクトラム症の場合、本音と建て前の区別がつかない、皮肉やお世辞を適切に解釈できない、いわゆる「空気を読む」ことができないなどのコミュニケーションに大きな問題を抱えています。そのため、上司やお客様と家族・友人に対する態度の適切なコントロール、会議における「その場の空気感」を察した対応などができず、ストレスを抱えることが多くなります。このストレスは当の本人よりも、周囲の他者をイライラさせたり、不快にさせたりすることにもなります。

物を無くしたり落ち着きがない注意欠如・多動症

 注意欠如・多動症の場合は、IDカード・鍵・書類などの紛失や、職場のデスクを片付けられないなどの問題がまず挙げられます。次いで、落ち着きの無さが目立ち、周囲の他者を疲れさせることが多いという問題もあります。また、情報収集の圧倒的不足での重要な決定をしてしまうというケースも多く、仕事での失敗や会社自体に損害を与えてしまうようなミスも発生しやすくなります。

お金の計算やビジネス文章の理解に支障が出る限局性学習症

 限局性学習症の場合は、一見、学校での勉強のみに問題がありそうに思えるかもしれません。しかし、仕事では、正確なお金の計算、長文の報告書の作成、大量のビジネス文書に短い時間で目を通して理解する、などのように読字・書字・算数が密接に関係する業務が多く、また非常に基本的な業務であればあるほど、こういった能力が必要になります。そのため、苦手分野は1つだけだったとしても、そこで全ての業務がストップしてしまい、他者に迷惑をかけてしまうことも多くなります。

【4】新型うつ病と“大人の発達障害”の関係

最近「大人の発達障害」と同様に注目されているものに「新型うつ病」があります。これも「 」であえて表現しているのは「新型うつ病」という病気も存在せず、精神科や心療内科で「あなたは新型うつ病です」と診断されることはないからです。そして「新型うつ病」と「大人の発達障害」には、関連があるのではないかと考えられています。

新型うつの症状とは

「新型うつ病」の特徴として、若者に多く、抑うつはあまり認めらないが疲労感や倦怠感が強い、ストレスの原因を積極的に避けようとする、自分ではなく他者や所属先を責める、休日や趣味・遊びの場合は症状が治まり活発に活動する、などがあります。

新型うつ発生のメカニズム

実はこの「新型うつ病」は「大人の発達障害」の人が、新たな環境への不適応を起こした結果ではないかと考えられています。若者に多いというのは、新卒社員や大学1年生などの新しい環境での生活がスタートした人たちのことを指しています。そして、非常に軽度な発達障害のため、これまでに診断・治療などの必要性がない状態であったものが、就職・進学などのきっかけによって表面化したことが原因ではないかとも考えられるのです。学生の時よりも、就職後の方がコミュニケーションは複雑になります。その結果、それまではあまり大きな問題にはならずに済んでいた社会的・対人的な問題が顕在化してしまいます。しかし「大人の発達障害」の当事者からすると、自分は子どもの頃から全く変わっていないのに、就職した途端に急についていけなくなった、周囲との間に溝が生まれたと感じてしまいます。そのため、自分に問題があるのではなく「周りが悪い」と感じてしまうのです。休日や趣味・遊びの際には一転して元気になるのは、そういう状況では「非常に軽度の発達の問題」を抱えている自分のことを分かってくれている他者とだけコミュニケーションをとるので、比較的、気楽でストレスの少ない状態で過ごせるからだと考えられます。
 このように「新型うつ病」は「大人の発達障害」における各種症状が、仕事や生活におけるストレスという形で現れたものとして捉えることができるわけです。

【5】大人の発達障害との付き合い方:

自分が「大人の発達障害」かなと思ったら

では「大人の発達障害」には、どのように対処すればよいのでしょうか。まず、当事者側の方は、一度、専門の期間で発達検査を受けてみることをお勧めします。最近では、アンケート形式の質問紙検査で「大人のAD/HD」のアセスメントができるものも開発・販売されています。たとえば「最近、物忘れがひどくて、仕事でもミスが多いなぁ。もしかしたら、自分は“大人の発達障害”なのかも?」というように考えている人がいたとしたら、それはあまりにも時期尚早な判断です。私たちはストレスに曝されると、記憶や情報処理に悪影響が生じることが判明しています。単なる一時的なストレスの影響なのか、“大人の発達障害”なのかは、専門家による検査などの結果を受けて判断すべきです。ただし、発達障害は「治る」というニュアンスのものではないので、今までもずっと続いてきたことに対して、これからは上手く付き合っていくという観点からカウンセリングなどを進めていくことになります。根気のいることではありますが、科学者としての視点を持ったカウンセラーであれば、適切な対応をしてくれる可能性は高いので、専門に相談し、支援をうけることが重要になります。

あなたの周りに「大人の発達障害」の方がいらっしゃれば

 また、当事者ではない方、周囲の他者の方々の対応も重要になります。私たちは他者との適切なコミュニケーションについて「当たり前」だと感じているので、そんなに真面目に考えたことがないかもしれません。しかし、私たちの「当たり前」は「大人の発達障害」の方々にとっては、当たり前ではないのです。まずは基本的な部分として「当たり前だから、分かるだろう」や「こんなことはイチイチ説明しなくても・・・」という考えを捨て、しっかりと説明・注意を小まめにするということが「大人の発達障害」の方々との上手な付き合い方になります。
最近では、企業などでも「大人の発達障害」の方々に対する研修などを実施しているところも増えています。研修内容は前述のような、私たちが「当たり前」と思って見過ごしてしまうような、非常に基本的な社会人としての心得やビジネスマナー、仕事をする上での責任感などが多いです。実はこういった内容が「大人の発達障害」の方々にとっては非常に重要な「実践的な情報」なのです。

【6】まとめ

今回は、発達障害(神経発達症)について、代表的な発達障害とその症状、「大人の発達障害」との違い、「新型うつ病」との関係などを踏まえて解説してきました。まだまだ分からない部分も多い「大人の発達障害」ですが、研究も進み、サポート体制の確立も広がっています。まずは、科学的根拠に基づいた対応ができる心理カウンセラーなどの専門家に相談してみるということが重要であると考えられます。
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